空想少年通信

「空想少年はテキストデータの夢を見るか?」の人のつれづれブログ。

わたしのこと、すき?

気がつくとずっとその人のことを見ていた。
最初にその人のことを気にしていたのは小学校の時、野球の試合でバッターボックスに立つ姿を見た時だ。ユニフォーム姿がとても格好良くて「ああ、この人のようになれたらいいのに」と思った。中学に入って同じクラスになった時に、その時好きだった子と同じクラスになったのと同じくらいに嬉しかったことを覚えている。
仲良くなるのはもう初めから諦めていたので見ているだけでよかったのだ。その人のことを目に焼き付けて、家に帰る途中、夜布団に入ってから寝つくまで、一人でいる時間にはその人と親しくしているところを想像しては頭の中で会話を組み立てていた。それだけで十分だった。
いつだったか、授業で同じ班になった時に少しずつ話が出来るようになって、他愛の無いことやしょうもないこと、時々は下ネタまで話題に上った時には夢を見ているのではないだろうか、とさえ思うくらいだった。できればその夢をずっと見ていたかった。
あいかわらず僕はその人のことを見ていたし、ばれるのが嫌だったからなるべく外を見ているようなフリをしていた。
なにこっちを見てるんだよ、と言われて「外見てるだけだし」と視線を外にずらして返した。
たぶんそれは恋とかそういうものに近いものだったのかもしれない。
ある時鼻歌を歌いながら帰り支度をしていたことがあった。途中で出てくる、そう聞こえるとされていたセリフを口にした途端、その人の真横にきてしまった。
「……ねえ、わたしのこと、すき?」
その人は驚いてこっちを向く。いまなんて言った? 僕は慌てて言い訳をする。
「歌の歌詞にそういうのがあるから! 本気で言うわけないからそんなの!」
もしかしたら顔が赤かったかも知れない。そう言えたらどんなにかいいのに、と思っていたのも事実だ。でも言えるわけがないこともちゃんとわかっていた。だから、わざとその歌を歌っていたのだ。たぶん。