空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

(無題)

放課後。人の少ない教室。全開にした窓からはのんびりとした部活の声。笑っている君のそばに、気づかれないようにそっと近づく。バレたらたぶん逃げられてしまう、なにかのゲームのような感じで、僕は自分の机までいって帰る支度をするふりをして君の話を聞いていた。
僕の視線に気づくと君は必ずひどく嫌そうな顔をするので、僕は絶対に君のほうを見ることはしない。ただひたすら君の声を聞いて、君が笑っているか、君が怒っているのか、ぼやいているのか何をしているのかをわかろうとした。
ワッという声が外から聞こえる。サッカー部の誰かがゴールを決めたようだった。その場にいた誰もが外を見て何が起きたんだ、というような顔をしていた。すぐに視線を戻し、それでも「うるせぇな」というふうに笑っていた。一瞬だけ僕もその中にまざってしまっていた。
しまった。
教室が静かになる。僕はあわてて目をそらす。止まっていた手を動かし、カバンに教科書を詰める。早くここを出ないと。
僕の視線に気づいた君は、ひどく嫌そうな顔をした(ように見えた)。不機嫌な声で話が続く。さっきまでとはあきらかに声のトーンが違う。
ホイッスルの音が遠くから聞こえた。
試合終了。僕はまた君の話を最後まで聞くことができずに教室を出る。