空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

感想をいくつか(その6)

もうだいぶ経ってて。読んだから感想を書こうと思っているので今ごろなんですが、

『絶対移動中vol.13 絶対移動(中)大賞/掌編企画「東京以外」/開拓せよ!最前線』

原稿を募集して、それらの中から大賞を選んで、他の受賞作とともに掲載されている。ものすごく真っ当な文芸誌。文藝とか、あんな感じ。こういうの大好きなのでうれしい。

絶対移動(中)大賞のほうは一つだけどうしても読むことができなかった。なんか全力で話のほうから読むのを拒否されたって感じだった。それ以外は全部読んだ。好きだったのは「白雪姫前夜」と「声」と「名前のない明日」かな。

大賞をとった「白雪姫前夜」は「小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク」という不思議なフレーズだけが独り歩きして、それだけが情報としてあるという、ある意味ありえない状態で読んだのだけれど、これ、このフレーズを切り離して読んだほうがいいんじゃないか。王子様が白雪姫を見つけてしまったみたいに、勝手に巻き込まれてしまった男と、それを上手く(たぶん狡猾に)利用して外に出てしまった少女と、本当は中になにか入っていて男もそれを知ってて開けるに開けられないいわく付きのトランク。みたいな感じなんじゃないかなぁ。少女は外に出たあとはきっと継母を殺りに行くんだろう。あるいは、継母の元に戻って一から同じことをくりかえして、また男のような犠牲者を出そうとしているのかも知れない。ピンスポットしか当たっていない舞台で一人ずつ語っているようなそんな不思議な話。あるいは倉橋由美子の大人のための残酷な童話みたいな。

後半の掌編はくりまるさん、霜月みつかさんのが好きだった。

全体を通してみると、本当は自分はあんまり実験的なのは好きじゃなくて(例外はあるけど)、わりとフツーの話が好きなんじゃないかと思った。でもそういうのも読んでみないとわからないし、こういう形でないと出会えない作家さんもいるわけで、そういう意味ではとても収穫でした。バックナンバーも読んでみなくちゃ。

 

『失い続ける夢の途中で君が手を振っていた』Lumiere

表紙をどこかで画像で見て、これだって思って。直感を信じて買った。

理由はよくわからないけれど、すっと頭の中に入ってきた。文体が好きなんだろうな。ずっとうつむいてたのに、ふと頭を上げた瞬間の表情が思いがけなくすっきりしてた、みたいな。写真と文章とあといろいろがそこにある、という理由もきちんとあるように思った。

写真が文章に対して、空気とか風とか意味とかそういうものを連れて来る。文章はそれを呼ぶ。ささっと読めるんだけど、何度も読んでその時に受け取れるものをそのまま受け取ればいいのだと思う。読むたびに感想が変わっても、好きなページが変わってもいい。

眠れないときに変に高ぶっている気持ちを抑えてくれる、そんな文章でした。読んで落ちついた気持ちになれるってあんまりない。この本は大事にしようと思いました。もっと読みたいとも思いました。

 

『きっと最後』伊藤佑弥

恐ろしいまでに同じ場所をぐるぐるしている。本当にびっくりするくらいに。

ただよくよく見てみると少しずつ上がってはいる。螺旋階段か立体駐車場のスロープかくらいの違いはあるけれど。吹っ切れたわけじゃないけど諦観したわけでもない、もやもやした感じが残る。でも読んじゃうんだよなぁ。すげえ。

彼女というかそういう間柄の人がだいたいは一緒にいたりするので、そういう意味ではリア充なのかも知れないけど、でもこれに出てくる男って良くはないよなぁ。でもそういう男に引きつけられるっていうのはなんかわからんでもないよ。