空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

(掌編)甘いチョコよりも、

こんばんは。添嶋です。これはnoteに載せたのと同じくものです。例によってノー推敲なので習作的に読んでいただければ。

 
 

 

「甘いチョコよりも、」

チョコなんて別に、と言っていたやつでも実際誰かからもらうと嬉しいらしい。今日、朝、登校するときれいに包装されたものが靴箱や机にあって、それを見て周りを確認して笑いを堪えられないようなやつが何人もいた。
いかにも義理とわかるのは、お返しが欲しくて誰が置いたのか名前が書いてある。そうでないやつはひっそりと置いてあったりすることもあった。
「これ、誰から来たのか全然わかんないんだけど」
ヤマナカは机の中にあった二つの包みを前に難しい顔をしていた。他にもいくつかもらっていたけれど、それには誰からのものかしっかりとアピールしてあった。この二つだけは誰からのものか想像もつかない。
「本命二個とかヤマナカモテんなあ」
まわりからちゃかされて顔を真っ赤にする。自慢するつもりもないのに、そうなってしまって、だけれどまわりからは厭味に取られないのはヤマナカの性格の良さによるのだろう。
 
その包みの主ははその様子を見て少しほっとしていた。
自分以外にもそういう人がいたのだ。きっとしばらくは誰がそれを贈ったかまでは気づかれることはないだろう。そうしてもらったことくらいしか覚えていないようになれば、それがいちばんいいのだけれど。
その日の朝、いつもよりも少しだけ早く来て、机の中に入れたのだ。そのまま教室から離れていればいいだけのことだ。まだどの特殊教室も開いてはいないけれど、校舎裏にでもいれば大丈夫だ。登校時間もだいぶたってから、あらためて教室に入るだけでいいのだ。計画はきっと上手くいく。
 
ヤマウチは浮かれているヤマナカを見てうれしくなる。自分のすきな人が楽しそうにしているのをみるのは楽しい。そうでなくてもクラス全体がなんとなく浮ついているのだ。
「なんかいいことがあったみたいだね」
そうヤマナカに話しかける。ちゃんと返事してくれなくても別に平気だ。それが当たり前だし、なにかを望んでいるわけじゃない。
「いやあ、モテる男はつらいっすねえ」
どっちかなんて選べないよなー。誰かもわかんないのに、と浮かれるヤマナカは今まで見た中でいちばん嬉しそうに見えた。
 
授業は何事もなく進む。先生によってはバレンタインの思い出話をして、クラスが変に盛り上がったりする。誰がどう見てももらえなさそうな先生なのにいくつももらっていたりすると「仕込み」とか「自分で買ったのをもらったことにしてるんだ」とか言われてて笑える。
「先生それ本当ー?」
声が上がる。笑いが起こる。
「嘘ついてどうする。奥さんになる人にもらってんのに」
え、先生結婚すんの? また盛り上がる。
「あんまりうるさいと他のクラスに迷惑かけるから静かにな」
自分で話を振っといてなんだよ、という声には耳を貸さない。
 
夕方、帰り支度をしているとヤマウチは自分の机の奥にも何かが入っているのに気づいた。周りを見る。誰もいない。包みはヤマナカが持っているのと同じものだ。違うのはメモがついているところ。
「おたがい、ふりむいてもらえるといいね」
どこかで見たことのある文字だ。振り向いてもらえるように。ああ、気づかれてる。ヤマウチは思った。慎重に隠していてもわかる人はわかるんだな。ヤマナカは変なところで鈍感だからたぶんわからないだろう。
生まれて初めてもらったチョコレートはライバル宣言のようにも見える。だけど、本当のことは誰にもわからない。
確かに気づいてほしい気もするけど、それはなんだか違う気もする。へたに気づかれて壊れてしまうくらいなら、このままのほうがいいに決まっていた。
 
帰り支度を終えて玄関に行く。靴を替えようとするとそこにメモが置いてあるのに気がついた。
 
「ありがとうー!来月楽しみにしてて」
 
さっきのとは違う字だ。本気にしてていいのだろうか。知らないうちに顔がほころぶ。