空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

(掌編)見たいのは夢じゃない/言えない言葉を突きつけられ/涙はいつか止まるもの

こんばんは。
ツイッターで書いた三題噺を加筆修正してnoteにあげたものと同じものです。
では本編どうぞ。

 

小説の公募に出しても、いつも一次にも引っかからないし、ウェブで公開しても閲覧数も少なくて、まして感想なんかついたこともない。傾向と対策ばかり考えて書いてもつまらないので、気分転換に好き勝手書くこともあるけれど、見直せば削除したくなるだけだった。
小説家になろうなんて、もう無理かな、と思うことがある。だが、書きかけのファイルの整理もできない。いつもそのままにしてしまう。
この前も書き上げたはいいけれど、そのままになっていた原稿を公募に出した。たぶん主旨に合わないといって切られてしまうだろう。他に出すところもなかったし、誰かに読んでもらいたいという気持ちのほうが大きかったのだと思う。
 
幸いなことに仕事は忙しかった。派手な活躍もないかわりに大きなミスもない。同じことを繰り返す生活はつまらないけど気が楽だ。
年末を控えた日のこと、会社で意向調査があった。ことあるごとに遠回しに現場はもう無理、と言われている。だからと言って、自分には他になにができるというのだ。蹴られるのを承知で現場希望とだけ書いた。意地でもここにしがみつくより他になかった。
年明けすぐに上司から呼び出された。提示されたのは具体的な処遇と進退の話。具体的には現場を離れて支社の閑職に引っ込むか、辞めて別の仕事を探すか。
どちらかと言えば辞めて欲しいというのが上司の本音のようだった。もう俺らには手に負えないよ。その言葉にはうんざりしたニュアンスだけがうかがえた。
本人が思うよりもずっと前からダメだったのだ。来週末まで待ってもらえますか、という言葉をやっとの事でしぼりだす。答えが出たらすぐに言え、という返事がくる。もうこれ以上は待つのも嫌なのだろう。
 
その日、どこまで仕事をしたかろくに覚えていない。他の社員は薄々気づいていたようだったが、自分からはなにも言わなかった。みっともないという気持ちはあまりなく、申し訳なさだけがあった。
いつもは終わらない仕事を置いて帰ることもなかったのだが、その日は定時を少し過ぎたあたりに席を辞した。
帰りの電車の中で目を閉じると、涙が出てきた。自分のことなのに宣告されたことに酔ってるな、とも思った。気持ち悪い。自分がいちばん嫌いなタイプの人間のようになっている。すぐに考えをまとめなくてはいけない。
仕事と物書きの両立とか悠長なことを言っている場合ではないだろうということ、この後の生活のこと。独り身でよかったと思う。こんな歳で放り出されて、自分に家族がいたらと思うと恐ろしくなる。
目を開けると滲む車窓の灯りが見えた。なんだとっくにダメだったんじゃん。言葉にしたら少しは楽になるかと思ったが、そういうわけにはいかないようだった。