空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

感想をいくつか(2013秋・その1)

まだポエケットで買ったものとか前回の文学フリマのとかいろいろ積み残しはあるんですけど、文フリ17で買ったものからいくつ感想を。ほぼツイッターでつぶやいたことの再録ですが。

  • 「ヨンコと四個のビン」
    サークルは「おとといあさって」、らしさん。箱の中にある四つのビンと、プロローグ、エピローグからなる不思議小説。自分で手を動かして読まないとすすめられないのだけれど、ビンを開ける時のドキドキさと言ったら! 子供も楽しく読めて、しかもちょっと冒険風だったりするテイストが楽しいと思いました。それにしてもお父さんは、もう。と読後に思ったのは僕だけでしょうか。
    (うちの子供は「お父さんかわいそう(ひどいけど)」と言ってましたよ)
  • かえるのポストカード
    いたに沙耶さん。写真がきれい。うらやましい。添えられているシンプルな言葉が好きです。
    今うちの作業場に飾ってあります。
  • 「放課後の魔女」
    フブキナオクモさん。「ミサキとケースケ、あとカナ」というタイトルの小説を、まだ一般参加してた頃だったと思うけど買って読んだことがある。その方の、ツイッターでやっている短い言葉群。タイムラインに時々流れてきて、そこだけ不思議な空間になる。
  • 「あかとあお 2013 秋 東京」
    サークルは「むらさきいろの双子」さん。小説の引用とどこか退廃的なムードの写真の組み合わせ。東京の写真なのに、人の気配がしない。見えなくてもいるんだろうなとは思うのだが、人の気配はしない。引用されている文章が、写真にそれ以上の存在感を与えていると思う。
  • 「鉱石展示室」
    サークルは「琥珀舎」さん。文フリでは実は完売になったとのこと。後からその存在を知ったので、ウエブに公開されている全文を読んだ。うまく言えないのだが、プロローグで少年が鉱石と、ある少年と出会い、大人になって琥珀糖の店の主となって町の人と関わる。ラストは思いっきりネタバレっぽくなるので是非読んでいただきたいのだが、最終話からエピローグに続く流れ、あのラストに至るまで、読んでいて鳥肌が立つとは思わなかった。あんなの初めてだよ。ものすごい良い話を読んだと思った。
    最初初期の長野まゆみっぽいかなと思ったけれど、ちょっと違うかなぁ。淡い水彩画のようで、でも琥珀糖はしっかりとそこにある。人も、彼も。
  • 「変色効果」
    女流文芸サークル鉄塔さん。「ばかもの」は幼いころの恋とも好意ともつかないあれ、で呼んでいるうちに胸が痛くなる。気づいていたことを自分に知らせるのも自分ならけりをつけるのも自分。
    「つかまえて金力石」は万華鏡のようだった。ページをめくってあれ、さっきの続き?って思うんだけど、続きっていうか作品集なんですね。
    沖縄の話、俺、旅行はわりとノープランで行ってひどい目にあうんですけど、みんなで行くとそれもまた一興なのかなー。エッセイふたつは笑った。なんか友達に笑える話を聞かされて「えー、なにー、やだあ(背中ばんばん)」みたいなところがいい。
    「仄赤い部屋から咲いたもの」は読んでいて映像が頭に思い浮かんだ。わりとそのまんま。
    「世界の終わり、そして彗星」は外国の児童書を読んでいるようだった。思い浮かんだのはクロッキー画とかそれっぽい感じのアニメーション映画。
    合同誌ってわりと並び順が重要なんですけど、ここのサークルはいつもうまいです。頭から読んでだれずに最後までいくことができるように作るのはけっこう大変だもんね。
  • 「スウィートフィッシュとジグソーパズル」
    サークルは「色彩Writer」、syouさん。ここは事前ノーチェック。ブースの目印の小さな暖簾がかわいかった。自作だということ。ディスプレイ大事だよなぁ。持ってくるの大変じゃなかったですか?
    で、本の話。わりと先にラストを読んでから安心して最初から読むみたいな邪道なことをするんですが、買うときにお話を伺ったのでそれはやめにして最初から読みました。
    まさにパズルのようにところどころをヒントにして継いでいくと最後に大きな絵が完成するという感じ。文章量も多くなく、むだにはらはらしないので好きです。でもちょっと途中急ぎすぎたかなーと思ったところもありました。全体のバランスとったらこんなもんかもなーとも。
    一番好きな話はカメラの人のやつで、一番はらはらしたのは物まねタレントのやつ。読みやすかったので、次回作も読んでみたいと思いました。これくらいならうちの子供なら読めるかなー。
  • 「ゆる本」
    サークル「雲上回廊」さん。タイトルどおり、ゆるい雰囲気。うまい表現が見当たらないんだけど、いつもの調子で手癖をうまく使って書いてる感じがする(あくまで褒めています)。あるいはコピー本の勝利なのかなー。ちゃんとした印刷本だとこうはいかないんじゃないか。で、カフェがテーマ、なのかな。まさしくカフェか純喫茶でコーヒーでも片手に読むにはいいかもしれない。ものすごい短いものも、ちょっと長めのものも、緩急(とはいわないのか)つけて配置してあるので読み進めやすいです。氷砂糖さん、蒼桐大紀さん、笹山笑さんのが好きでした。
  • 「絶対移動中 vol.14 マヨイトあけて」
    サークル「絶対移動中」。冒頭から中盤、伊藤鳥子さんまでの並び順でちょっと持ってかれそうになって(笑)、こらすごいぞって思った。合同誌での並び順、大事。
    ちょっとここのは個別に感想を書かせてください。
    宵町めめさん。映画の予告編のような、導入部のような。来るぞ来るぞって感じで読みました。どう書いてもネタバレっぽくなるのでこの程度ですみません。
    加楽幽明さん。一つ前が予告編だとしたら、こっちは導入の部分かな。静かな文体が「マヨイト」という全体のテーマへの道案内になっているような感じがしました。
    涌井さん。どこかで本当にこういうことがありそう。彼がでられなくなった理由がいっさい書いていないような気がしたけれど、あんまり気にはならなかった。引きこもることそのものには理由なんかないのかも(彼に限らず)。これは感想でもなんでもないんだけど、彼女はとっとと見切りをつければよかったんだよ、というあたりがマヨイトなんだよなぁ。
    高橋さん。これも俺が感想を書くとどう書いてもネタバレっぽくなる? 母と入生田さんてそれだけの関係だったのかな。ってちょっと思った。書いてあるだけの関係だったとしてもでもやっぱり、うーん。
    なむあひさんはまだ二つしか読んでないけど、丁寧に書いてるなあって思った。イマジナリーフレンドを持つ文学少年少女は読んでいてやばいと思ったことでしょう。ときどき自分の頭の中の話に支配されそうにならないですか? アウトプット先がないとインプットばかりでは増築されるだけの世界に連れて行かれてしまうのではないかな。そのうえで敢えて言うと、途中、主人公が家を飛び出すところだけちょっと唐突だったかも。ただ、ラストはあれしかないよなぁ、って思った。そうすることでしか終わらせられない物語。永遠に続くはずの。
    鳥子さんのは主人公はずるいというか優柔不断というか幼いというか、決められないまま来ちゃったんだろうなぁ。それがここにきて具現化しちゃったのかもしれない。僕には焦れったくて「お前はっきりせーよ」って思ったんですが(笑)、ま、それが人間てもんなんですけど。
    三糸さん。お話がとても不思議でした。なんかイギリスっぽいなと思ったら、作者はスコットランドの方なんですね。なるほど。翻訳の解説をとても興味深く読みました。そこらへんの教養がないので、授業を聞くような感じで。
    業平心さん。SFとしては面白い題材だと思います。っていうか僕は面白く読めました。わかりづらいという意見も見られますが、僕は必要な情報が少ないというか、あらかじめ共有していないといけない前提が多すぎるんじゃないかと思いました。話さなくても知ってるでしょ、っていうやつです。短縮された用語とかも、もうちょっとほんのちょっと説明があったらわかりやすかったのにって。反面、同じものを描写しているのに表現がぶれているために同定しづらいというところがあってそこがわかりづらい遠因になっているのではないかと思いました。イラストも込みで世界を作っているのに勿体ない。今度僕にもイラストかいてください(なにを言っている)。
    秋山さん。読み進めていくうちに、あれ、設定変わってない?って思ったのですが、そういうことでした。マスカレイドで、カレイドスコープ。それぞれの思惑、それぞれの(誰にも知られていない)立ち位置。勇者(?)が一番哀れで滑稽に見えるのもそれはそういうことなのでしょう。
    radicalOtaさん。ジャパニーズサイケデリック。(って勝手に思った。こういうのの知識のない自分。)
    いづるさん。賛否両論なのかなぁ。出てくる名前とか団体とかそういうの全部切り離すと、メタ小説(って言っていいんだよなぁ)としてはものすごい面白いと思ったんだけどなぁ。ヨーヨーが手元に戻りつつまたすぐに手を離れてあっちこちに舞うように行ったりきたりしつつするさまが面白いと思います。遊園地のミラーハウスで迷ったみたいなかんじなのかなぁ。
    有村さん。現代版お伽噺のような。長く続いた夢のような、なんだろうなぁ。言葉にならないのですが、これすごい好きでした。手術をしないのにアルジャーノンと同じ経験をしてるみたいな(?)。最後が前向きでよかった。
    よしくによしさん。普段こういうの近寄らないんですけど、妙に気になる。絵柄? もしかしてこれが俺にとってのマヨイトか?
    くりまるさん。全体を一つの作品とすると、これは素敵なエピローグ的存在。暗黒舞踊ってあの暗黒舞踊だよなぁって思いながら。これ言葉だけで説明するのって大変だと思うんですけど、細かい描写でクリアしている。しかもうざったくない(笑)。細かい描写が苦手な僕はうらやましいと思いました。
  • 「トキシン」
    サークル「兎角毒苺團」。僕も参加している「毒」がテーマのアンソロジー。
    自分以外の作品がみなすごすぎて、なんか申し訳ないくらいなんですけど、僕が毒と聞いて思い浮かぶのが、小さいころ、夕方の皮膚科、薄暗い待合で順番待ちをしているときに読んだ怪人20面相の本のおどろおどろしいものだったので、そこからうまいことはずしてくれるものばかりでよかったです。呪縛が解けた(笑)。
    そういう意味では、風合文吾さんのがいちばんイメージにあってたのかもしれない。星新一的な感じで星いちるさんのが、恣意セシルさんのが中ではいちばん好きでした。
  • 「少女××してここより先、春。」
    サークルは「文学結社猫」、山本清風さん。
    清風さんて読む人の世界を動かして別の場所に変える力があるのではなかろーか。断片的なんだけどトータルで見ると一個の世界。繋がってるようなないような、どこにでもある、どこにもない世界。短いのにしっかり読後の充足感。清風さんとは逆に読む人の中にまで来てその人を変えるような文章を書く人もいる。そういうのを読むと「これがあるから俺書かなくていいじゃん」てなってそれにだけ浸りたくなるんだけど、これはそうじゃなくて適度な距離をあけてくれるのがいいと思った。
    「トキシン」にあったものと比べると僕はこういう散文ぽいほうが好きだなぁ。毒の効いたユーモアよりも、美しい毒のほうが読んでいて心地よいです。

ここから蛇足。「ゆる本」「絶対移動中」「トキシン」は平行して読んでいた。どれもいっぺんに読むのがもったいないと思ったのと、いっぺんに読むとその世界にもってかれそうになったから。自分のバランスをとるのにそうした。でも、それぞれがまざらずにちゃんとそれぞれの世界を置いてくんだからすげえよなぁ。

と言うわけで、今回はこれにて。