空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

ノスタルジー

放課後 誰もいない教室の開け放した窓から風が
味気ないベージュのカーテンを揺らして
僕はここにいるよ と 言っているようで
帰ろうと思うんだけど まだここにいてほしいような
そんな素振りを見せている
 
整理しきれていない机とか
あれだけ先生に言われているのに棚に乱暴につっこまれた教科書とか
いつまで僕はこの光景を見ていることができるのか
このまま大人にならずにいられたら
もしかしたら そんなことができればいいのだけれど
 
花壇の水やり当番とか
科学部のメダカの水槽とか
誰も知らない 僕が大切にしているもの
一つずつ集めてとっておけたらいいな
いつか歳をとって 制服の似合わない身体になっても
僕だけの教室 僕だけの世界があれば
いつまででも一人ででも生きていけるのに
 
遠くから聞こえる 金管楽器の音
ぐるぐると回る視界 許されはしないだろう
僕がここにい続けること 僕が子どものままでいること
僕の好きなものをすべて捨てて
嘘でも笑って話して汗かいて叱られて
なにかの一部になって 誰かのかわりになって
生きていく 年老いて いらなくなって いつか
すべてのものから捨てられる日まで
 
風にあおられたカーテンが顔に当たる
僕を覆い隠す
陸上部の掛け声 サッカー部のシュート
野球部のノック 軽音部のドラム
僕の耳に入るすべての音
僕の視界に入るすべての
 
すべての 僕がいなくても なりたつ この世界に
 
(泣いたりはできないよ
(許されたわけではないから
(必要とされてはいない
(むしろこのまま
 
カーテンの影 消えてなくなる僕の
誰も知らない形跡 最初からいなかったのか
本当はいたことに気づかないだけなのか
窓を閉めて おとなしくなる頃には
誰もいなくなって 姿もなくなって
おしまい さようなら またいつか
 
またあした 僕がいなくても なりたつ この世界に
さようなら いらないものを