空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

【寄稿しました】「Profiles」のできるまで

オカワダアキナさん主宰の「庄野潤三「五人の男」オマージュアンソロジー 任意の五」という本が発刊された。そして僕もこの本にご縁があり、寄稿いたしました。

 

きっかけ

以前、「終わりのある脱毛体験コース」アンソロジーに滑り込みで参加させていただいて、そこからのご縁かと思われる。

お声がけいただいた時点で「なんで私がこのアンソロに……?」という言葉が出そうになって、お前それ塾のCMのパクリやんけと自己ツッコミしたのだが、先のアンソロの作品と、通称三号氏とともに制作した「a drawing book. 」が良いというお言葉をいただき、気を良くして、参加させていただくことに。

五人の男なんだから五つ話ができればいいんだよなあ。でもどんなのを書けばいいの。

 

元ネタを読む

そもそも庄野潤三の作品を読んだことがない。それは良くない。……というわけで、該当の作品が含まれる本をサクッと購入。読んでみた。

他の方もだいたい同じような感想を持ったかもしれないが、脈絡があるようなないような、繋がってるようなないような、モノローグをただ聞いているような、その時代の話しをただただ聞いているような、そんな話だった。

この作品の場合、私、が話者になることで枠組みができ、統一性が出てくる。となると枠組みは必要。

せっかく「a drawing book.」が良いという話をいただいたので、それに近いことをやってみることにした。また架空の展覧会である。

 

「a drawing book.」とは

先に 「a drawing book.」の成り立ちを説明しておく。あれは通称三号氏(うちの一番下の子だ)が、志望校に受かり晴れて美大生になったので、その記念になんか作るか、と言って作った本だ。彼にいくつか絵なり写真なりを提供してもらい、それに自分が文章をつける、以前写真家の方と作った本と同じことをしようと思っていた。

彼から「こんな感じ」と送られてきた絵を見て「こりゃ掌編とか、*1写真詩集みたいなのは違うな」と思い、その場で方針変更をしたのだった。

その結果が「(架空の)展示の(架空の)図録」である。

図版とタイトルだけは提供されたそのまま、あとは架空のものにすると、図版には当初の意図と違う意味合いを持たせることができるはずだ。そのことによって、架空の展示が現実のものとなって成立するのではないか、という実験でもある。*2

ということで、自分はキャプション、ステートメントに徹することにした。

展示をよく見るようになってからキャプションやステートメントの書式も気になるようになってきた。少なくとも「これこれこういうことを描きました」「ここをがんばりました」というのは違う。これはどちらかというと義務教育期間の子供のコメントだ。

自分でそれらしい文章を創作するにしても、ある程度の書き方を知らないと「これこれこういうことを描きました」になってしまう。ネットにある、いくつかのサイトを参考にさせてもらった。

こことか。

この時に、ポエムのようなふんわりした文章はほどほどにしないといけない、みたいなことも知る。そりゃそうか。

キャプションや解説をそれらしく書き、できたのが「a drawing book.」だったわけだ。とはいえ成り立ちを知らなくてもたぶん面白く読めると思う。もちろん図版だけ見ていても楽しめる*3

 

構成

話を戻す。「a drawing book.」が個展であれば、これは何になるか。はっきりと意識はしなかったが、ボルタンスキーによる「シャス高校の祭壇」や「三面記事」、あるいはゲルハルト・リヒターの「 8人の女性見習看護師」みたいなのを連想した。

であれば、名もない一般の人に関する文章をひたすら並べていこう。できるだけ淡々と、感情やら思い入れやらを廃したやつ。

……という方針になった。 (あと、できたらハッピーエンドにはしない、いわゆるメリーバッドエンドもなしという心構えを持った)

 

構成は書きながら考えたのだが、最終的に出てきたのは次の5人:

  1. 親元を自ら離れ、自立する男
  2. 所有物を勝手に捨てられた男
  3. 解雇されそうな作家志望の男
  4. 性的被虐故に冷め切った少年
  5. 失踪し世間から忘れられた男

書いた順で言えば1→3→5→2→4。順番通りの構成として思いついたものの、2と4はアウトプットが難しく、まとめるのに酷く時間がかかった。3と4は自分の中に元ネタがあって、それを再構成したもの。とはいえ元の文書は全く残っていないので、全部書き直したことになる。

途中から、やはり図版があったほうがいいと判断、オカワダさんの許可を得て図版入りの作品とすることにした。そのことを考えている時点ですべて書き上がっているわけではなかったが、4に関してはどうしても入れたかったので、図版を先に依頼することにした。

 

図版

三号氏に依頼したのはこんな感じ:

あ、で、前に言ってたオカワダさんのアンソロ用の挿絵、

「泥酔して床と同化している友人」「部屋の真ん中でただ椅子に座る男」のクロッキー「ベッドの上に足投げ出して座ってる男」のドローイング

というのがほしいです……

これだけである。これだけでよく描いてくれたな。ともかく、これ以上はなにも言わないで好きに描いてもらった。

あと二つはだいたい頭にあるので、それに見合う画像を用意すればいい。意味がわかる人にだけちょっとだけ不穏になってもらえればそれでいい。

出来上がったそばから見せてもらい、原稿の軌道修正を行い、書けていない部分を書き上げる、そういう作業に徹した。

 

それぞれの解説

細かく解説するのも野暮だと思うので、書いているときに頭にあったものを書いていくことにする。本当はこんなの読まないで好きに解釈してもらえるのが一番だと思う。

親元を自ら離れ、自立する男

これはスルスルと出てきた。書きはじめの頃は図版を使用すると決めていたわけではないが、架空の展示には写真もあったはずで、ならば写真を撮ることを生業としている人が出てくるべきだと思った。SCPとかその辺のネタにされそうなもの……ということを頭に置きつつ書いた。

母親、父親との関係性とか父がそこにいないこととか、言外にはあるけど、そこまで書くのは図録的じゃないよなと思って割愛したところはある。

図版は「泥酔して床と同化している友人」という題で描いてもらったクロッキー

所有物を勝手に捨てられた男

ぶっちゃけていうと、これだけはよくある話だよなあと思った。実際、文学フリマの直前に結婚相手から言われて所有しているアイドルグッズをすべて捨てる、みたいな話になっている人を見かけたくらいだ*4

以前、鉄道模型を捨てられた男の話をネットで見たときに、自分ならどうしただろうと思ったのだった。ぼんやりと頭にあった話を、これも自動書記のように書いていったが、今回のこの話は相手を追い詰めきれていない。

あと、再録するならここだけ構成変えるかもしれない。

図版は「部屋の真ん中でただ椅子に座る男」という題で描いてもらったクロッキー

解雇されそうな作家志望の男

これは自分の中に元ネタがあって、たぶんこれは単体では出ることはないんだけど、1を書いている時点で思いついたので、書きかけの山の中から探してきて再構成した。

若い頃に楽しいと思ったことをずっとやっていたい、やっていたかった(できればみんなで)みたいなのは、イベントに出続けていると一定数の人が思うことで、でも生活との折り合いはつけなければいけない。辞め時がわからないというのは本当はもう心が離れてるのだと思う。

図版は上野駅の入谷方面の陸橋から撮ったもの。ここ、乗り越えられそうだと思った。

性的被虐故に冷め切った少年

一番難しかったもの。元ネタは昔、今はもうない投稿サイトに途中まで書いていた話で、これを改稿した*5

本当はもっと生々しいものにしたかったんだけど、そうすると(非常に下世話な話なんだが)AVの冒頭のインタビューみたいに見えてしかたなかったのだ。なので、この形に落ち着くまで長かった。男性性被害って根性論で片付けられがちで、きちんと論じられることが少ない(と思っている)。故に自分を他人事みたいにしないといけないんだよな。

図版は「ベッドの上に足投げ出して座ってる男」の題で描いてもらったドローイング。

失踪し世間から忘れられた男

これだけはなんで出てきたかわからない。ふらっと失踪したらどうなるか、から連想してざらざらと書いたらこうなった。

この手の失踪って命の危険があると思われたら探そうと思えばいくらでも探せるはずだけど、周りにその気がなく、本人もそれをわかっているという感じ。他人への興味関心なんて実はその程度なんだと思う。

図版は、関西にある、某墓地から見える景色*6

 

本の購入

オカワダさんが出店されるイベントもしくは以下のところで取り扱い(または予定)だそうです。よろしくお願いいたします。

おまけ

最後に、作るだけ作って「いやこれ宣伝にならんしなんならネタバレ(とは言えないけどそれに近い状態)やんけ」と思い、没にしたもの。あんたいつまでエヴァにかじりついとんのや。

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*1:昔々作って、たぶん顔見知りの誰かに酷くdisられた

*2:あとで、本人解釈による説明をしてもらったが、悉く違っていたので自分の見る目は正しくはなかった、ということになる

*3:というかメインはそっちなわけだし

*4:パクったみたいになってないかとドキドキした

*5:そのうちどうにかしてちゃんと形にしたいと思っているのだが、なので余計にどこまで解説していいのかわからない

*6:実はここに古くからの友人のお墓がある