空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

花火大会

花火大会に君を誘った。
ずっと前から考えてて、どっちにどう転んでもきっと後悔しないだろうという勝手な思い込みで君に声をかけた。
君は困ったような顔ですこし考えて「ごめんね、友達と行く約束をしてるから」と言った。やっぱりな、と思った。
それはそれでしようがないし、もともと花火は見に行くつもりだったから姉ちゃんに子どもを花火大会に連れてってもいいかな、といって連れ出した。
姉ちゃんたちは僕が思った以上に喜んでくれて、姉ちゃんの子どもははりきってついてきてくれた。
会場について、どこかちゃんと見える場所はないかと探していると浴衣を着た君を見つけた。声をかけようと思ったけど、隣に僕の友達がいることに気がついた。二人がつきあっていたなんて知らなかった。もしかしてみんな知ってるのかもしれないけれど、今ここで僕が声をかけるのはあんまり良くない気がしてやめた。花火を見に行こうなんて思わなければよかったと初めて思った。
二人が見えない場所に姉ちゃんの子どもと座ってみることにした。
次々と上がる花火に二人で声を上げた。
君や友達に気を使われるくらいだったら本当のことを言ってくれたほうがうれしかったのに、と思った。誰かが僕に知られるといろいろ厄介だからな、といっていたことをふと思い出した。それがどういうことかはわからないけれどきっとそれが原因の一つなんだろうと思った。
「たのしいねぇ」
そういって姉ちゃんの子どもは僕に向かって満面の笑みを見せてくれた。僕も「来てよかったな」と笑った。
「帰りにかき氷でも食べていくか」
「いいの?」
「姉ちゃんには内緒な」
姉ちゃんの子どもは「内緒、いいねぇ」と体をよじらせるようにして喜んだ。
べつにどうもしなくてもいいのか。明日からも普通にしていれば。不用意になにか言って君や友達を困らせなければ。二人がどうして僕に黙っていたのかとかそんなことより、自分が余計なことをして二人を失うことだけが嫌だった。
そんなふうに考えていると、会場全体がざわついて、それに釣られるようにして空を探すと今まで見た中で一番大きな花火があがった。