空想少年通信

素人物書きのつれづれブログ。

感想を二つほど。

文学フリマで買った本を二冊ほど読んだので、その感想を。

「水野街クロニクル」栗山真太朗

前半。クロニクル(=年代記)なんだけど、年代順には語られていなくて、その並び順で語られて初めて、意味があるのだと思う。ほぼ今と同時期もしくはほんの少しだけ先の話。

パラレルワールド(と勝手に断言させてもらう)の話ではあるが、妙にリアリティがあってときどき怖くなる。実際の事象に則した事象とかがあるので。時代小説風あり、トワイライトゾーンのようなのがあり、現代劇があり、全体として振り幅は大きいけれど、水野街と言う大枠からはもちろんだけれど外れていない。すべてが必要とされる物語群だった。

読んでいるうちに「この世界にはどこかの外国と水野街の二つしか存在しないのではないか」という風に思えてしまった僕ももしかしたら、水野街の不思議な力にからめ捕られてしまったのだと思う。

で、もう一つは「ウォヴォカの道化師」と言う話。ボーナストラック扱いなんだけど、クロニクルが吹っ飛ぶくらいの良作。なんで別立てにせずに一冊にまとめたんだろうっていうくらいの。ページ数の問題かなー。

先住民と白人(アメリカのフロンティアとかそんなあたりだよな)の歴史は高校の時に今は亡き担任がものすごく熱く語ってくれた。懐かしい。でも視点はほとんど白人寄りだったのかな。もしあの頃の自分とか、高校生あたりの子がこれを読んだら、白人に対してものすごく嫌悪感を抱くんじゃないかなあと思った。ちょっとした映画のようですよ。

そんなわけで、二つともタイプの違う話だったけれど、とてもよかった。栗山さんの書く文章はそこらの同人作家が束になっても勝てない力を持ってる。そう思ったのでした。

「1/2」Lumiere

鳥久保咲人さんと秋山写さん。女教師に仕組まれた男子高校生同士の小さな同性愛の物語とある。

両A面みたいになってて、どっちから読んでもいい作り。

テニス部のユウヤと、バスケ部のツカサと、教師の蜷川。ユウヤは表に出さないようにしているけれどツカサが好きで、ツカサは蜷川に悶々とした感情を持ってたはずなんだけど蜷川に言い寄られるようにしてユウヤに近づいて必要以上に仲良くなる。と言うのがだいたいの設定。かな。鳥久保さんのは少しずつぐぐぐぐっと迫るように物語は進んで、秋山さんのはナイーブすぎるくらいの物語。でも敢えて一緒くたにして感想を書きます。

読み終わって蜷川めーっ、男子の気持ちを弄びやがって! ツカサも酷い、ユウヤがかわいそうって思った。でもしばらく考えて、もしかしたら蜷川がユウヤの気持ちを知っていて、だから、そういうことにまるで無頓着な(というか今までまるきり他人事だった)ツカサを仕向けたのかも、って思ったのだった。

純情なようでずっと人とは違う感情をくすぶらせていたユウヤに比べて、ツカサはぶっちゃけていうと思春期なんかきてないんじゃないの、っていうくらいにさえ見える(女子のいうところの「男子ってガキよね」っていうあれだ)。なにも知らないツカサにわざとそういう道を提示したんじゃないかと。いや、わかんないけど。

いずれにしても初めて無理に自分を抑えなくてもいい状況になったユウヤに対して、ユウヤにも蜷川にも戸惑いを隠せないツカサ。それぞれの感情が読んでいて辛い(^^;)

最後、真ん中で二つの物語はかちあう。物語のあとははっきり書いてなくて、正直なところあんまりいい結末になる気はしない。でも二人を思うと、どうにかしていい方向で終わってくれたら……じゃないか、続いてくれたらいいのに、と思った。それがたとえ幼い頃だけに成立するごっこ遊びのような関係で、もっとあとに「このままじゃダメだよね」ってなったとしても、嫌な終わりかたさえしなかったらそれでいいんだけどな、って思った。深読みのしすぎかなー。